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電源修理

今回、ある機器の電源を修理する過程で故障個所を特定するまでの事をつらつらと。ほとんどの人には役に立ちません。
最近低圧電源のマイコンを使い始めたこともあって、混在電源に使われるスイッチング電源やDC/DCコンバーターについて調べる事が増えてきてた。けども、例えばTL494のような他励式プッシュプルコンバーターは理解がしやすいんだけど、自励式コンバーターやフライバックコンバーターについてはさっぱりだった。
が、今回修理した電源回路がまさにその鬼門とも言える自励フライバック電源と思しき物で、このタイプは大体一次側に発振回路がすべて収まっており、怪しげ(?)なICが一つあるだけでスイッチング関係の半導体も全く見当たらず、絶縁プローブを持ってないので、オシロで波形観測するわけにもいかない。とりあえず各所にテスターをあてるところから始めてみた。
とにかくまず、電源出力があるのかないのかを調べる必要があったが、製品が古いせいなのか、あるべき数値というか正しい電圧が何ボルトであるのかがどこにも書かれていない(笑)。普通、シルク印刷とかで書いとくもんだと思うんだけど、そこはメーカー指定のサービスマン以外は触るな的な何かなのかもしれない。仕方がないのでまず電源基板の回路図を起こす事に決めた。ここで、怪しいICのデータシートが意味不明過ぎて時間を取られてしまった。また、トランスの諸元が不明なので、フォワードコンバーターなのかフライバックコンバータなのかの判断に迷った。正直、今回勉強しなおしてみるまで、両者の違いを全く理解できていなかったのだが、要点だけ言えばフライバックコンバーターならば二次側「電圧」は必ず巻線のターン数に比例する。「何を当たり前の事を」と思うかもしれないが、フォワードコンバータの場合は一次巻線が作る磁界を打ち消す形で二次巻線に電流が流れるため、二次巻線に流れる電流の合計だけが重要で、電圧は関係ない。それに対してフライバックコンバーターでは二次巻線に流れる電流は常に励磁電流であるため、電圧の低いところへ電流が流れて行ってしまう。電流が流れたところは電圧が上がって電流が流れにくくなるので、結果として巻線1ターンあたりの起電力はどこをとっても必ず同じになるという事らしい(知らなかった)。あとになってこの知識が故障個所の特定に役立った。
回路図を起こした結果、電源は全部で5本あり、うち1本はモータドライブ用の電源で二次巻線の一つからほぼそのまま取り出されていた。二次巻線の残りの一つはさらに二つに分けられ、一つはシリーズレギュレータでロジック用の5V電源となり、残り一つはインバータでマイナス電源と低圧の交流電源を生成していた。
故障の状態は、ロジック電源が0Vになってしまう事だった。
シリーズレギュレータの入力電圧が3Vほどしかなかった。これはスイッチング電源がシャットダウンしている状態に似ていたので、最初に疑ったのはスイッチング電源部のフィードバック回路で、ツェナーダイオードがほとんどショートして基準電位が見かけ上、下がったいるのではないかと疑った。が、実際に計測してみるとツェナー電圧は正常。当然次に疑うのはフィードバックに使われているフォトカプラで、入力側と出力側それぞれ測定してみたが、これも正常。つまりフィードバックは正常に機能している事になる。
ここでやっと、オシロで二次巻線の波形を観測してみる事に思いが及ぶ。あまりまとまった時間がとれないせいで手間取ったが、正常時は100kHz以上あるはずのスイッチング周波数が、20kHz以下にまで低下していた。また二つの巻線にそれぞれ30Vと15Vの電圧が現れるはずが、12Vと3Vにしかなっていなかった。この周波数の低下が発振器の不具合なのではと思い、回路図をもとにLTSpiceで何度もシミュレーションしてみたが、どうにも納得のいく結果は得られなかった。もはやこの謎ICを交換するしてみるしかないのかとも思い始めた。
ここで思い出して欲しい。フライバックコンバータは巻線のターン数の比がそのまま電圧の比になるはずだ。なのに、測定結果はそうなっていない事にしばらく考えてから気づいた(笑)。実は、波形の正の部分の電圧だけ見たために気づいていなかったが、ピークツーピークで測ると正常時も異常時もちゃんと同じ比率で電圧が出ている事がわかった。また、電圧とデューティ比の積が故障時も正常時と全く同じである事に気づいた。この事から、ずっと一次側の故障と思ってたのが実際は二次側の故障が影響している可能性に思いを馳せる事ができた。
そこでとにかく二次側の波形をいろいろ観測してみた。インバータの出力電圧の一つが正しかったため、インバータの別の出力も勝手に正しいと思い込んでいたが、実際に測定してみると全く出力されていない上に、発振周波数もおよそ500kHzと異常に高くなっている事に気づいた。普通こんなに高い周波数は必要ないので、どうやら二次側のインバータが異常らしいとあたりをつけた。
ここで、二次巻線の平滑コンデンサに外部の直流電源から安全に直接電流を流し込める事に気づき、ためしてみたところ、見事に故障状態が再現され、さらに詳しく見たところ、インバータのトランジスタがショートしている事が判明した。顕微鏡でトランジスタの表面をみると茶色く変色しており、実は通電中に異臭もしていた(気づけよ、俺!)。
インバータに電源を行かないように回路の一部を切断して、切り離した回路以外の回路がすべて正常に作動するようになった事を確認し、故障個所の特定が終了した。